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浜田昭八のベースボール万歳

第173回 名将か名コーチか (09/02/16)

スポーツライター 浜田 昭八

はまだ・しょうはち
 1933年大阪市生まれ。56年関西学院大卒、デイリースポーツ社入社。60年日本経済新聞社入社、主にプロ野球を担当。82年同社編集委員。97年スポーツライター。現在、日経新聞月曜付スポーツ面コラム「選球眼」を執筆中。
 主な著書に「いつの日か江川監督」(エイデル研究所)、「プロ野球株式会社の勝者と敗者の条件」(徳間書店)、「監督たちの戦い」「ベンチ裏の人間学」「近鉄球団かく戦えり」(日経ビジネス人文庫)。共著に「球界地図を変えた男・根本陸夫」「プロ野球よ!」(同)。

 大打者山内一弘さん(毎日・大毎―阪神―広島)が、ひっそりと亡くなった。近親者で葬儀を済ませ、逝去が公表されたのは3日後の2月5日だった。普通に葬儀が行われたとしたら、キャンプ地の沖縄、宮崎からも野球関係者が多数参列しただろう。キャンプの盛り上がりに水を差したくないという、山内さんのやさしい心遣いが悲しみを誘う。

名コーチ列伝に入る山内さんの熱血指導

1983年11月、若手選手に打撃のコーチをする中日監督時代の山内さん(共同)
1983年11月、若手選手に打撃のコーチをする中日監督時代の山内さん(共同)
 “シュート打ちの名人”など、数々のタイトルを獲得した打撃をたたえる声は多く聞かれたが、監督山内はほとんど語られていない。1979年からロッテで3年、84年から中日で3年、監督を務めたが両球団で1度ずつ2位があっただけで優勝はない。パが2シーズン制だった80年に前期優勝したが、後期優勝の近鉄にプレーオフで敗れた。監督の評価は優勝回数で決まる傾向があり、監督山内さんが評価されないのはやむを得ない。

 名将ではなかったが、名コーチ列伝には間違いなく名を挙げられる。監督で成功しなかったが、コーチとして数々の選手を育てたという点では、杉下茂、中西太、稲尾和久らの諸氏に共通したところがある。専門分野に精通し、そこに力を注ぐあまりに監督としての大局観に欠けるとみられた。

打者育成で卓抜した別当−山内コンビ

“いてまえ打線”を育てた実績がある真弓監督(共同)
“いてまえ打線”を育てた実績がある真弓監督(共同)
 山内さんの芸術的なシュート打ちは、青田昇さんの打撃を参考にした、が定説だった。だが、最も影響を受けた打者は別当薫さんだと山内さんは生前に漏らしていた。毎日・大毎の僚友であり、監督兼任の主砲だった。同じ右打ちの外野手なので、新旧スターの間には微妙な確執があったようだ。それでも、学ぶべきものは学ぶという割り切った姿勢で、多くの技術を盗み取った。

 別当さんも典型的な名コーチ型だった。監督として毎日・大毎―近鉄―大洋―広島―大洋で20シーズン采配を振るったが、2位が3度あるだけで優勝なし。それでも打者育成の手腕は素晴らしく、大毎ミサイル打線の山内をはじめ榎本喜八、葛城隆雄らも別当打法を盗んだそうだ。それにしても、別当―山内の師弟コンビが、同じ名コーチ・タイプなのは偶然だろうか。2人とも監督をせず、打撃コーチ専門だったら野球人生はさらに栄光に満ちていたに違いない。

監督志向は止められない

二軍監督としてキャリアを積んだ秋山監督(共同)
二軍監督としてキャリアを積んだ秋山監督(共同)
 さて、現役の監督にも、正直に言って「監督などやらないでコーチに徹したら、もっと高く評価されるのに」と思われる人がいる。監督に比べてコーチの報酬が非常に低い。さらに、一軍の将になるのはやはり野球人の夢だから、監督志向は止められない。

 キャンプの段階で言うのは失礼だが、阪神・真弓、ソフトバンク・秋山の両新監督も名コーチ列伝に名を連ねることができそうなのに、なにを好んで監督にと思うことがある。真弓監督は近鉄コーチで“いてまえ打線”を育てた実績がある。2002年の西武戦で1試合だけ梨田監督の欠場をカバーして指揮をしたことがあった。松坂をKOしたが、双方6投手ずつを繰り出す乱戦を10―12で落とした。この1試合だけで指揮官としての手腕を疑問視するわけではないが、打者育成が性に合っているように思えてならない。

 秋山監督は二軍監督としてキャリアを積んだ。ただ、育成を主眼にした二軍と、勝たねばならない一軍とは、当然のように監督の手法は違う。一騎当千の一軍勢を取り仕切るには、人がよすぎる感じもする。スーパースター王貞治という“重し”がなくなったチームをどう扱うだろうか。仮に真弓、秋山両監督が成功しなくても、決して野球人失格ではない。山内さんも中西さんも、監督を退いてからコーチでたくましく生きたのだ。

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お知らせ 「浜田昭八のベースボール万歳」は今回で最終回となります。ご愛読有り難うございました。

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